雑記 夢
ふと、気が付くと、荒涼の街に二人、立っていた。隣に立ちたるは、懇意の友人、S君である。
どうも油断するとまずい様なので、一先ず、と歩き出した。
一人の少女が立っている。目には両の目を隠すように細長い布、手には、一つの鞠。ぽおん、ぽおん、と宙に浮かべながら、全くの無表情で立っている。
近づくと、顔色一つ変えずゆっくりと此方を見て、何処へとも無く、消えてしまった。
歩く。
見渡しても、見渡しても、味気無く荒れ果てた、ビルの街。未だに、一つの状況も理解せられないので、兎に角歩く。
暫くの間、辺りを回ったが、何も無い。
また、歩く。
すると、先刻の少女がまた、ぽおんと鞠を真上に放りながら、立っていた。
そして、また、消えた。
風が、方方から、吹いてくる。寒い。そう思った。雨が降っている訳でも、雪が降っている訳でも、暗雲立ち込めている訳でも無い。海の様な空である。ただ、寒かった。凛とした、真冬の、しんとした、寒さであった。辛くも、痛くも、無い。唯何処か侘しい、寒さであった。
辺りの見当を、と、近くのビルの階段を上った。コツ、コツ、と、一段ずつ、上った。
屋上は、やはり寒かった。そして、あの少女もいた。柵の無い屋上の、端に立っていた。ぽおん、と鞠を投げていた。今度は、少女が先に、こちらに気づいた。
ゆっくりとこちらに顔だけを向けて、少女は手に持っていた鞠を、地に、そっと、おいた。そして、落ちた。一瞬の出来事であった。
確かに、少女は、落ちた。ビルの屋上から、すっと落ちた。私は狼狽した。
「下に戻ろう。」とS君は言った。
一階の入り口へと、また階段を下った。入り口に着いた。私は、ドアを開けることが出来なかった。真赤の洪水を予期したからである。
しどろもどろして居るうちに、目が覚めた。私がS君と交わした言葉は、あの一言だけであった。