回廊

目が覚めると、階段に立っていた。日本橋の二、三倍もあるだろう幅をのぞけば、特段変哲の無い階段である。

上から、下から多くの人が行き来する。歩く人達は果てしなく普通であるが、何処かがおかしい。けれども、何がそう思わせるのかは解らない。

往来する人々を見つめながら、私の状況を理解しようと努めた。考えている間に亦、眠ってしまった。

 

今度は、海の上に居た。見渡す限り何も無い、大海原の中心である。私は水面の上に二足で立っており、どうやら沈まない。訳が分からないまま、取り敢えず歩いてみることにしよう、そう思った。其の矢先、足を何かに引かれるように、奥底へと沈んだ。大変な勢いで海中へと引きずり込まれたが、波、泡、音、何も無かった。そして、ふっ、と私の意識は飛んでしまった。

 

そして、目が覚めた。私の体は、寝室の、蒲団の中にある。確かに有るのだが、何かが足りない。ああ、と思った。私は、私を、見つめていた。眠っているのか、死んでいるのか、すや、と臥した私を見つめていた。

どうもよく解らない、そう思った途端にまた、眼前に光は消えた。

 

ーーあの日、階段に立った日から、私は未だに目覚めることが出来ていない。毎日、毎日、道化な夢を見続けているのである。目の前で人が死ぬ夢、生気のない人達の中に放られる夢、幾度開けても外に出られない扉の夢、尋常で学友と過ごす夢。そういった類いの夢を、何百何万と見ている。しかしながら、飽きたか、否かも、解らない。自分のことなど何も、解らない。解るものか。只、いっさいは過ぎて行く。みんな、過ぎて行く。

私が目覚める日は、来ない。死んだら目覚めるのかもしれない。とうに、死んでいるのかも、知れない。私が目覚める日は、来ない。