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みちみち一言も、口をきかない。情の揺れが特段激しい彼は、むっと不機嫌になって、黙り込んでしまった。

 

今、喫茶店で、向かい合って席に着き、得意の論争を繰り広げていた所だった。彼はよく、自分の思う所と反することをぶつけられると、頭に血が上る。よく言えば人間的、悪く言えば子供。更に「ぼくが悪いのはわかっているけれど」などと言うので困ったものである。

 

臆病な自尊心と、尊大な羞恥心と、とは言い得て妙である。如何とも言い難い、面倒、愚昧、荒唐無稽、御機嫌いかがでございましょうか。

 

小生の疵瑕などよくよく承知しております、などと言う人間など信用出来ぬ。嘘に決まっている。本質から逃げている。自己保身を図ること自体どだい悪なのである。俗物甚だしいのである。彼曰くどうしようもないらしい。はて。

 

一度、彼が機嫌を損ねると、長いことそのままであるので、今日は家に帰った。

 

あくる朝、常々の喫茶店でまた彼と向かい合って席に着いた。彼は笑顔で瑣末な話を始めた。一日寝ると忘れる性分らしい。はて、変わらぬひとである。