雑記

北の国で雪に囲まれ育った男は、都会の中にひとりぽつねんと立って居た。

 

所謂都会の喧騒というものは、彼にとってぴりぴりと染みる痛みのようなものだった。それは、瘡蓋を無理矢理剥がしてまた血が出た時の様な、むず痒さに似ている。

 

彼は、ふと、常に思考の介在する人と、その逆の人とでは、どちらがよいのだろう、と思った。

 

考える事は悪くないし、そうである筈だが、考えすぎると駄目になる。

思考のない人はきっとよくない、と思うけれども、些か楽で良いのかもしれない。

 

この手の話は、結局、なんだって塩梅なんだ、ということに落ち着く。どうやら今回もそうらしい。

 

彼は一寸溜息の混じった深呼吸を数度繰り返し、とぼとぼ歩き出した。そして、大きな雲の様な人混みに紛れて行った。

 

立ち止まっているとひとり、紛れ込むとひとりでも、そうでもない。

 

無機質な群れの中に、個を捉えることなんか出来ぬのだ。

 

彼の行方は、誰も知らない。